Friday, January 18, 2008

『ランチ』前後のケイ・タケイ(1)

ケイは『ランチ』の成功の後、「ライト シリーズ」で作品の発表を続け、アメリカ公演だけでなくカナダ、イスラエル、スペインなど海外公演も行なううちに、彼女の人気も高まり、しだいに教えを求める生徒も集まり、やがて“ムービング・アース”という舞踊団を結成する。
その活躍の噂は、情報が切断されていた当時の情勢の中でも耳に聴こえて来たが、1977年に突然彼女は“ムービング・アース”という一団を引連れて来日公演をする。作品は「ライト シリーズ」。

それについての私の寸評を、当時の同人誌「肉体言語」(9号)から抜き取って以下に紹介しよう。タイトルは「向う側から来たケイ・タケイ」。
「向う側とはアメリカのことでなく、未知の鬼の住む国のことである。
※ 舞台奥の垂れ幕の中央に、日の丸のように暗黒の穴が空いている。その前面に四角に敷きつめられた仮りの場。人間どもは暗黒の片隅から這い出て、ロボットのように生活する。一人は算えて、奥の暗い穴にボールを投ずる。
※ 「あんたがたどこさ、肥後どこさ」小石をもてあそぶ子供の遊びが、いつの間にか賽の河原の場面となる。小石で作られたサークルの内と外。子供と鬼の世界、やがてサークルがいろいろと形を変え、魔術的に働くサインとなる。

1977年の夏、彼女は10年振りにやって来た。アメリカの市民権を得たという。その時、私にお土産にくれた
ものは、直径約4㎝の、丸味を帯びた平たい、なんの変哲もない石だった。ただ珍しいことに、その真ん中に、直径1㎝ほどの穴が空いている。彼女はそれにプルーのリボンを通して結んであった。アメリカのどこかの地区の川縁にだけある石だという。
ベケットの小説の中に、放浪しながら小石をポケットに入れて、手でそっと触れる男の話がある。私も小石が好きだが、小石を好きなのは分裂質の人間なのだ。硬質の手触り。この世界のリアリティの殻の固さ。その穴の向う側にひそむ、暗黒の未知の世界。そこから生まれて来たが、死がひっそりとそこに待ち構えている。

ケイ・タケイは、小石が秘めるそのぎりぎりの意識を、あの作品の中に構造化して見せてくれたのだ。」

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