Friday, August 14, 2009

かもめマシーン(5)

しかし一見、この芝居は死刑制度をテーマにしているようですが、その問題をきっかけにしてドラマのタイトルが示すように、ほんとうは「家族」を中心テーマにしているのでしょう。
現代は個人のことばかり考えて、じぶんが属する家族のことを忘れがちです。

たとえば、“風水”の重要な判断の要素として次のような項目があります。
色/方位/季節/家族/臓器/十干/十二支
ここで“風水”の例を引いたのは、この劇場の空間配置がどうもそのことを感じさせるからです。
劇場空間がまったく風変わりな構造をなしている。ステージの半分を取り巻み、東側の正面と南側の側面が客席で、ステージは劇中の客間の場面で、その西側の中央に居間を取り巻く廊下に通じる入り口がある。しかし、居間と廊下を隔てる壁の部分が、立て板が並ぶ隙間が大きく空いていて、しぜん壁の向こうの廊下を通る人物の姿が透けて見える。
北の部屋から西の廊下を通って居間に入ってくる者、南の部屋と西側の部屋と玄関から入ってくる者とが、方角によってそれぞれ違ったニューアンスを持って出てくることになる。

北は「水」で黒く冷たく、沈黙する。西は「金」で白く乾いた感じで、居間の入り口に近いテーブルで交わされる会話は硬質である。それに対して南の客席の裏に当たる部屋から出てくる人物は内側は火が燻り、組織を崩すはたらきをする。
それらに対してステージ正面の東の客席は、「木」で青く静かな風の様相を示し、観劇する者の心は揺れている。そしてステージの前面、ちょうど劇場のスペースの真ん中に位置するソファの場所は「土」で黄色く、黙りこんで寝転ぶ役の場所である。

それら空間的なものに対して、時間的なものとしては、場面のカット数と、同じ人物の客間への出入りの繰り返しがある。それらが抽象化され、周期的な線を描く。
ソファの傍に置いてあるラジカセから時々流れる音楽は、家族の内に対して外を表示している。

これらを総じてみると、劇の流れがぜんたいに記号に向っている。しかし、抽象化されていても、現実との連結があるため、劇そのものがドラマの筋をさぐるミステリー劇の様相をなしているのです。






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