特別通信3
相良さんに
第2場を終って第1場のシステム論の問題に移ろうと思っていました。
しかし、その前に「社会学」というのは、そもそも社会全般のことを考えるために作られたもので、当然その中に文化も含まれているものと考えていたのが、そうでもなくて、いつの間にか経済と密着し、文化は政治の全体構想の一部として追いやられる状態になっており、一方理科系の「人類学」であったところに「文化人類学」という新しい分野が、それまでの民族学とは別方向に急に創り上げられたのです。
それでも、「政治社会学」と同じように「文化社会学」という名目もあり、その新しい分野を確立して行こうとする動きは、イギリスのR.ウィリアムズがこれまでの上の階級から創られた文化とは違って、一般民衆の側から自然的な生活文化の道を選んだことから「カルチャー スタディーズ」の運動が起こったことを初めとして、「誰でもがアーティストになれる」を理想に掲げた“フルクサス運動”を引き継いだかのように日本の「サブカルチャー運動」が起こってもいるのです。
また、それとは別に、今私が手にしている「文化の社会学」井上俊・伊藤公雄
という双書には、フランスのカイヨワ、ベンヤミン、フーコーやアメリカのギアツ、パレスチナのサイードなどが、名を挙げられているのですが、どちらかというと文化人類学の分野かと思われるポーランドのマリノフスキーとフランスのレヴィ・ストロースも入っているのです。
そして、ここで私が最後に挙げたレヴィ・ストロースのところで、ストロースの「野生の思考」(1962)について書かれてあるところを読んでいると、今度の10月公演の第2場のテーマを如実に語っているのです。私がストロースの「野生の思考」を読んだのは60年代の後半のことで、こういうことを述べていたとは、不覚にも記憶に残っていませんでした。たぶん10月公演の2場のような直接的な現状になかったせいでしょう。日本の60年代末という時代は、それほど外部が騒々しく物事をじっくり考える余地がないほどだったのです。
以下、レヴィ・ストロースが南米のブラジルで、現地の未開人を実地研修したその成果を、この「文化の社会学」という本に書かれているまま、以下に問題のその箇所を書写しますので参考にしてください。
「本書「野生の思考」は出発点として、「心性」あるいは「思考」を、野生の思考と栽培・育成された思考とに二分している。野生の植物を栽培化し,野生の動物を家畜化することによって文明が生まれるという認識は一般的なものであるが、レヴィ・ストロースは、この二分法に、より特殊な歴史的基盤を与える。新石器革命を実現せしめたのが「野生の」の思考であり、17世紀に西欧に成立した近代科学の基礎をなすのが、栽培・飼育された思考であるという。
重要なことは、「野生の思考」は感覚に基づく「具体の科学」であったのに対し、近代科学は、感覚と知性を分離し、抽象的、形式的アプローチを行うことである。 j. ロックの哲学において、真実の存在世界を構成している第一次事象と第二次事象(諸感覚の所与である、色彩、匂い、味、音、感触など)とは区別されており、近代科学は後者を捨象することによって成立したのである。」
---------ここまで書写していたのですが、左眼が痛み出し,字がぼやけはじめたのでいったん休むことにしたのが、夜の10時頃だったのでしょうか、そのまま不覚にも寝込んでしまい、目が覚めて慌てて起きたのが翌朝の2時55分でした。永年の習慣というものは恐ろしいもので、朝3時になると自然に眼が醒めるのです。しかし昨日のうちに相良さんから皆に発送して貰う約束を里見さんとしてあったので慌てて続きの文を以下続いて写し始めます。
「レヴィ・ストロースは民族誌的研究から、一般を特殊に、抽象を具体に結びつける、無限の拡張能力をもつ分類体系ーーーそれは分別と対立を用いて時間を非歴史的に構造化するーーが「未開人」の思考の核にあることを示したうえで、これが野蛮の思考ではなく、西欧文明も含めて人類が新石器時代から生活手段の基本としていた野生の思考と同じであると結論する。かくして野生の思考は人類に普遍的に存在するものであり、それによって他者を理解する基礎となりうるものである。これに比べて西欧に成立した近代科学は、限定された時期と空間に発展した、人間にとっては特殊な思考様式であり、他に優越するものでもないということになる。」
この著書によってレヴィ・ストロースはサルトルの現象学を打ち負かし、その破れ目からアルチュセールの「マルクスのために」と「資本論を読む」やラカンの「エクリ」、フーコーの「言葉と物」など、あらゆる分野で“構造主義”が花ひらくことになるのである。
以上のことが参考になれば、思います。そして、「六大」といいながら、人間の意識を一段さげて「識」とし、他の「五大」と対させていることに注意していただきたい。
以上、及川
No comments:
Post a Comment