Tuesday, August 28, 2007

七月堂の木村栄治

七月堂の発行人であり印刷技術者でもある木村さんは、まことに変わった人である。というより、自分の出版に対する信念を変えないという意味では変人どころか、全うな人なのだろう。木村さんが自分の同人誌を作るにあたって、自分の手で印刷機を買い込んで、編集、印刷、製本、装丁、出版のすべてをやろうとしたことから出版・印刷の七月堂が始まった。他の同人誌の印刷から出版までも請け負って商売をすることになったのだが、事が詩の出版となると詩人との間で、とくに学生が多いのだが、紙の選択、タイポグラフィー、組版などの問題で互いの主張が合わず、言い争いから、ついには木村さんの怒りが爆発することになる。いつも仕事場は戦場の雰囲気と化した。

彼は言う「私は一銭もボラないし、真面目にやっている。きちんと原価計算して、印刷代+紙代+製本代÷部数で定価が決まる。全部売れたら元がとれる」。それで同人誌のばあいは内容を見た上で、買い取りの部数を決めて請け負うことにしている。しかし編集人として木村さんの名前が出る時は事が簡単に済まないのである。70年代後半の木村さんは、依然として吉本隆明の影響から抜けきれず鬱々としていた。それを自分でどうすることもできず、はけ口として同人誌を利益なしにただ無茶苦茶に作りつづけていたのだった。

しかし、その中に四方田犬彦らの「シネラマ」から松浦寿輝らの「麒麟」がつづき、松浦寿輝の「ウサギとダンス」、朝吹亮二の「密室論」など、詩集を発行することになる。
私はなぜか木村さんに気に入られて、朝吹亮二「密室論」や薦田愛の「ティリ」の凝った箱入りの本などを頂戴した。「Jam」や「肉体言語」などを発行できたのも全く木村さんの好意によるものだった。

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